過去記事において、好きなピアニストの一人にジョルジュ・シフラの名前を挙げました。しかし、まだ CD を紹介していませんでしたね。シフラの演奏はクセがあるので、万人にお勧めできないのが玉に瑕。そのうち、比較的誰でも好まれると思うのはリストの「ラ・カンパネッラ」です。

シフラの EMI 録音全集から聴いてみます。このボックスには 1959 年録音 (CD2) と 1969 年録音 (CD6) が入っています。シフラのベスト盤に収録されているのは前者なので、1959 年録音を聴きます。

CD をかけてまず驚きます。テンポが早いのです。ラ・カンパネッラは冒頭をゆっくりと奏で、やがてスピードアップしてゆく曲です。冒頭のテンポは、「ゆっくり」ではありません。これでは曲の構成が崩れてしまう!! テンポが上がる所でどう対処するのか? テンポを上げないのか? 逆にテンポを下げるのか? シフラの答えはこうです。「更にテンポを上げる!」。なんという強行突破。しかも何ですか? このハイ・テンポの中でギラギラと輝くような鐘の音を奏でているのは?! 美しいとか、技術が凄いとか、そういうのとは別次元の音楽です。そしてテンポを落とす所では、ちゃんとテンポを落として歌うんですね〜。こんなことが出来るのはシフラしかいません。残念なのは、冒頭のショックが大きすぎて、コーダが普通に聴こえてしまうところでしょう。凄い技術なんですけど、もっと想定外の演出を期待しちゃってね。とはいえ、シフラのラ・カンパネッラを聴くと他のピアニストのラ・カンパネッラが温く感じます。はい。

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