2014年01月

過去記事において、好きなピアニストの一人にジョルジュ・シフラの名前を挙げました。しかし、まだ CD を紹介していませんでしたね。シフラの演奏はクセがあるので、万人にお勧めできないのが玉に瑕。そのうち、比較的誰でも好まれると思うのはリストの「ラ・カンパネッラ」です。

シフラの EMI 録音全集から聴いてみます。このボックスには 1959 年録音 (CD2) と 1969 年録音 (CD6) が入っています。シフラのベスト盤に収録されているのは前者なので、1959 年録音を聴きます。

CD をかけてまず驚きます。テンポが早いのです。ラ・カンパネッラは冒頭をゆっくりと奏で、やがてスピードアップしてゆく曲です。冒頭のテンポは、「ゆっくり」ではありません。これでは曲の構成が崩れてしまう!! テンポが上がる所でどう対処するのか? テンポを上げないのか? 逆にテンポを下げるのか? シフラの答えはこうです。「更にテンポを上げる!」。なんという強行突破。しかも何ですか? このハイ・テンポの中でギラギラと輝くような鐘の音を奏でているのは?! 美しいとか、技術が凄いとか、そういうのとは別次元の音楽です。そしてテンポを落とす所では、ちゃんとテンポを落として歌うんですね〜。こんなことが出来るのはシフラしかいません。残念なのは、冒頭のショックが大きすぎて、コーダが普通に聴こえてしまうところでしょう。凄い技術なんですけど、もっと想定外の演出を期待しちゃってね。とはいえ、シフラのラ・カンパネッラを聴くと他のピアニストのラ・カンパネッラが温く感じます。はい。

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リストのパガニーニ大練習曲 第3曲「ラ・カンパネッラ」を聴きます。ピアノはアンドレ・ワッツ。

ワッツのリストのアルバムを輸入盤で探したら、「パガニーニ超絶技巧練習曲」を収録していると書かれたアルバムに出会うかもしれません。何ぞこれは? パガニーニ大練習曲と超絶技巧練習曲がゴッチャになったのか、と思われるかもしれませんが違います。実は 1851 年に作曲された「パガニーニ大練習曲」にはオリジナルとなる曲集があったのです。それが、1838 年に作曲された「パガニーニ超絶技巧練習曲」です。その難易度は「パガニーニ大練習曲」を超え、本当にリストって凄いピアニストだったんだなぁと開いた口が塞がらなくなります。CD で録音している人も僅かしか居ません。

私もワッツの「パガニーニ超絶技巧練習曲」のアルバムを買いましたが、ショックを受けました。収録されていたのは「パガニーニ大練習曲」だったのです。この輸入盤の存在のせいでしょうか、国内盤のライナー・ノートにはワッツがパガニーニ超絶技巧練習曲を録音していると書いたものがあります。しかし、私が知る限りワッツがパガニーニ大練習曲を録音したことはあっても、パガニーニ超絶技巧練習曲を録音したことはありません。ご注意を!!

さて、演奏に耳を傾けましょう。ワッツのピアノは非常に透き通った美しい音色です。ラ・カンパネッラの数小節を聴いただけで、音色にウットリします。これほど美しい「鐘の音」を聴かせてくれるピアニストは多くありません。テクニックも乱れがありません。ラ・カンパネッラは多くのピアニストに弾かれる曲ですが、満足に弾ききっているピアニストは実は少ないです。ワッツはラ・カンパネッラを「音楽を楽しむ」レベルで演奏してくれます。最後のコーダは演出十分。ピアノが唸りを立てて、盛り上がります。音色一つから曲の構成まで、見事に纏め上げた演奏です。

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アルトゥーロ・トスカニーニが 1939 年に集中的に録音したベートーヴェンの交響曲全集から第 1 番を聴きます。オーケストラは NBC 交響楽団。

私はトスカニーニのベートーヴェンの交響曲第 1 番が好きです。スパッ、スパッと切り込む演奏が何とも小気味良い。この CD は 1939 年に録音された物としては、良質な音楽を聴かせてくれます。それが、録音のおかげなのか、リマスタリングのおかげなのかは分かりませんが、トスカニーニの「推進力」を損っていないことだけは確かです (ステレオ録音ではなくモノラル録音なのはどうしようもありませんが)。音楽性だけなら、1950 年代の RCA レーベルでの全集よりも高いかもしれません。

機会があれば 1939 年録音と 1950 年代録音の二つのベートーヴェン交響曲全集を聴き比べてみたいものです。

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メンデルスゾーンの交響曲 第3番 スコットランド。クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団、1967 年 2 月の録音です。レーベルはデッカ。アバドの追悼にちなんで、私が一番好きなアバドの演奏を聴きました。

アバドに後にドイツ・グラモフォンにメンデルスゾーンの交響曲全集を録音しています。好みは甲乙つけがたいところですが、思い入れの深さで旧盤のデッカ盤を聴きます。

メンデルスゾーンのスコットランド。3 番となっていますが、これは発表順で番号を付けたためで、作曲順からすると 5 番目。メンデルスゾーン最後の交響曲です。美しく牧歌的な第一楽章から始まり、第四楽章の盛り上がりまで、メンデルスゾーンの魅力がふんだんに盛り込まれた作品です。

アバドとロンドン交響楽団はこの曲を、美しく鳴らしすぎず、さりとて盛り上げすぎずに演奏します。中庸な演奏かもしれません。ベルリン・フィルのような完成度の高さはありません。各楽器が自由に楽しく歌い、合奏は一部荒々しく揃っていません。書いていて特出した良さがないように思えてきました。

それでも、私が一番好きなアバドの演奏はこのスコットランドなのです。中庸ながら音楽の本質を掴んでいる演奏。それを指揮者とオーケストラが一体になって体現している。その音楽性が私とちょうどマッチしているのでしょう。

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指揮者クラウディオ・アバドが亡くなりました。1933 年 6 月 26 日誕生、2014 年 1 月 20 日没。

アバドと言えば、ベルリン・フィルの第 5 代首席指揮者 (1990-2002) として有名です。ビューロー、ニキシュ、フルトヴェングラーそしてカラヤンという大指揮者がポストをしめていた地位にアバドは就いたわけです。

しかし、アバドのベルリン・フィル時代はかくも幸福だったように思えません。元々、オペラを得意とする人で、主なレパートリーにはベートーヴェンやモーツァルトといったベルリン・フィルの十パ番が入っていなかったのは大きかったように思います。また、ベルリン・フィル時代初期は、カラヤンの作り上げたオーケストラのサウンドとイメージに内外ともに振り回されていました。天下のベルリン・フィルを手兵に持つわけで、名盤を残さなかったわけではありませんが、その割合というか数は先のフルトヴェングラーやカラヤンより劣りました。

私の好みを言えば、ロンドン・フィルを振った演奏などが才気溢れていて好きです。アバドらしさが良く出ていました。カラヤン・クラスの大巨匠ではないですが、アバドらしい名演が生まれていた様に思います。あとは、ベルリン・フィルを辞めた後。自分が創設したオーケストラを中心に振っていますが、これが非常に充実した演奏でした。「脱皮した」という表現が当てはまりましょうか。

81 歳。短命ではありませんが、ベルリン・フィル以降の名演を思うともう十年長生きして欲しかった指揮者です。

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